数字では測れない価値 ― 南伊豆に芽吹く未来を育てよう

今は、一年中ほとんど同じ野菜を買うことができます。便利になった一方で、私たちは旬というものを、少し忘れてしまったのではないでしょうか。

私は普段、畑で野菜を育てています。同じトマトでも、育つ時季や天候、土の状態によって、味や香りが違います。一本の株でも、初めの頃に実ったものと、後半に実ったものでは、味に違いを感じることがあります。

旬の野菜と時季外れの野菜では、栄養価にも差があることが研究で報告されています。野菜は工場でつくられる均一な製品ではありません。太陽、土、水、気温、その年の天候を受けて育つ、生きたものです。

ところが今の社会では、安いか高いか、形がそろっているか、効率よく大量につくれるかという数字が、価値を決める大きな基準になっています。

単価も、もちろん大切です。しかし、価格だけを追い求めていけば、そのものが本来持っている味や栄養、品質、そして生産する人の工夫まで見えなくなってしまいます。私は、これは教育にも通じる問題ではないかと思います。

学校や生徒を、偏差値や入学者数などの数字だけで評価すれば、その学校が持っている本当の力を見落としてしまいます。南伊豆分校では、伊豆の伝統産業であるワサビ栽培を題材に研究を重ね、日本高校農業クラブ全国大会で最優秀賞・文部科学大臣賞という日本一の成果を上げた生徒がいます。
また先日の伊豆新聞には、南伊豆分校の生徒が全国書写能力検定の文字文化大賞で総合一位になったことが紹介されていました。

農業研究と書写は、まったく違う分野ですが、そこには共通するものがあります。
目標を持つこと。毎日続けること。自分で考え、工夫すること。そして、簡単にあきらめないことです。

人にはそれぞれ、得意なこともあれば、力を発揮する時期もあります。野菜に旬があるように、人にも自分の力が花開く時があります。その時を信じ、待ち、支えることも教育の大切な役割ではないでしょうか。

南伊豆では今、新しい農業への挑戦が始まっています。伊豆縦貫道建設の発生土を活用して整備された約14ヘクタールの農地では、地元農家と北海道の企業が大規模なレモン栽培に取り組んでいます。また、温泉熱を利用したエビの養殖、町長自らが推進する長命草の六次産業化など、新しい産業の芽も育ち始めました。

さらに、早稲田大学の「田舎留学プロジェクト」では、学生たちが何度も南伊豆を訪れ、地域の人たちと交流しながら農業や暮らしを学んでいます。

こうした新しい動きは、それぞれが独立した事業ではありません。

もし南伊豆分校が農家や企業、大学、研究機関、地域の人たちと連携し、生徒たちが地域の課題を調べ、研究し、その成果を地域へ返していく学校になれば、この土地だからこそ実現できる教育が生まれます。私は、学校を残すことだけを願っているのではありません。

今、南伊豆に芽吹き始めた新しい農業や地域づくりの芽を育て、それを未来へつなぐ学校を育てるべきだと思って居ます。

数だけを追う合理化ではなく、芽吹こうとしている可能性を育てる環境を整えることこそ、これからの教育であり、地域づくりではないでしょうか。

8月1日 渡辺良平